シグナルに対する概日時計の位相応答理論とその実験検証

研究代表者
瓜生耕一郎
金沢大学 理工研究域 生命理工学系
http://bio.w3.kanazawa-u.ac.jp/bio-s/chronobiology/

研究概要

生体システムは外部環境の変化に対し適切に応答することでその恒常性を保つ。そのためには外部環境からの情報入力に対して個々の細胞が状態を適応させることが必要となる。細胞内の遺伝子発現制御は一般に非線型反応である。そのため生体システムのシグナル応答の理解には外部入力に対する非線型システムの応答理論が必要となる。非線型システムの例として、細胞内の遺伝子発現や代謝反応などにおけるリズム現象があげられ、その挙動の解明には数理解析が必須となる。

本研究では哺乳類概日時計をモデルシステムとして、遺伝子発現リズムのシグナル応答理論の構築とその実験検証を行う。概日時計は非線型振動の代表例であり、時間遅れを含んだネガティブフィードバックループにより一細胞レベルで自律的に遺伝子発現の振動が起きる。さらに概日時計は光シグナルに応答することで明暗サイクルに同調する。光シグナルは細胞内のシグナル伝達系を介して、概日時計遺伝子の発現を一過的に誘導し、それによりリズム位相を変化させ同調へと導く。明暗サイクルに対する概日時計の同調がうまくいかない場合に概日リズム障害が現れる。これらの症状の治療には効果的な位相変化をもたらす薬が必要となり、そのためにも概日時計の外部シグナルに対する位相応答の理解が必要となる。しかし、遺伝子発現の一過的誘導のタイミングと位相応答の関係には依然として不明な点が多い。

そこで概日時計の光シグナル入力に対する位相応答の解析をメインとして、遺伝子発現リズムのシグナル応答機構の解明を数理解析により行う。具体的には、(1)ネガティブフィードバックループ内の転写、翻訳といった生化学反応が時計の位相応答に及ぼす影響の解明、(2)遺伝子制御ネットワークに存在する複数の光シグナル入力点(=光応答時計遺伝子)の位相応答に対する役割の解明に取り組む。これらの研究結果をもとに、リズム障害治療薬設計のためのターゲット因子の特定を目指す。

参考文献

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