感覚組織形成に働く接着力と表面張力を制御する細胞間シグナルの解明
研究代表者
富樫英
神戸大学大学院医学研究科 分子細胞生物学
http://www.med.kobe-u.ac.jp/mcb/
研究概要
私達はこれまでに、内耳の聴覚上皮や鼻腔の嗅上皮などの感覚上皮に着目し、様々な細胞が接着力の違いによって自律的に並ぶ新規の細胞選別現象を見出し、組織形成の基本原理を明らかにしてきました。さらに、生体内で働く細胞選別メカニズムの破綻が生理機能の異常を引き起こし、疾患と関わることも見出しています。組織形成の過程では細胞間の接着力や張力の違い、さらに運動の制御といった様々な要因が関与することが知られており、古くから数理モデル化による理解が進められてきました。しかし、実際の組織の中では複雑かつ多様な細胞間での相互作用によって組織形成が進みますが、これらを適切に表現できる数理モデルはまだ存在しません。複雑な組織形成を少数のパラメータで表現できるようになれば、新たな標準モデルとしての発展が見込めるだけでなく、様々な応用が期待されます。
本研究では、匂いの知覚に働く嗅上皮をモデルに研究を進めます。嗅上皮を上から見ると、丸く小さな嗅細胞と多角形の支持細胞の2種類の細胞が特徴的なモザイクパターンに並んでいます。このパターンは、細胞が自ら動いて並び替わることで作られます。これまでの研究から、それぞれの細胞が発現している接着分子による接着性の違いが並び替わるために重要であることがわかってきました。しかし、細胞間接着を起点とするシグナルがどのようにして並び替え運動に関与するのかはわかっていません。本研究では細胞間の接着を起点としたシグナルに着目し、接着力と張力の制御メカニズムを明らかにした上で、多様な細胞形態や相互作用を含む新たな組織形成モデルの構築を目指します。
参考文献
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