初期胚の神経領域規定におけるBMPシグナリングのメカノレギュレーション
研究代表者
道上達男
東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻
http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/michiuelab/
研究概要
脊椎動物胚の外胚葉では、発生のごく初期に神経板・表皮とその境界が規定される。この規定に際しては様々なシグナル経路が関与する。例えばBMPシグナリングでは、BMP阻害因子によってシグナルの濃度勾配が作られ、閾値以下の領域は神経に、閾値以上の領域は表皮に、そしてその境界には神経堤や予定プラコードからなる神経板境界(NPB)領域が形成される。しかし、なぜ幅の狭い神経板境界領域が確実に形成できるかについては疑問が残されている。
これまで申請者は主にツメガエル胚を用い、予定プラコード領域規定の分子機構を研究してきた。例えばヒストンメチルトランスフェラーゼPRDM12の関与(文献1, 2)、BMP・FGF・Wntシグナル強度の調節で未分化細胞からプラコード様細胞を特異的に誘導する系の構築を行った(文献3)。また、新規プラコード遺伝子Fam46aはSmad1との結合を介してBMPシグナルを活性化することでプラコード誘導に寄与することを示した(文献4)。その一方、表皮神経領域規定に細胞張力が関係するかを検討するためFRET張力プローブを用いた張力計測を行い、神経―表皮間で細胞張力に違いがあることを見出し(文献5, 6)、また細胞形状の特徴も両者で違っていることを明らかにした。
他のグループの解析で、ES細胞から誘導した神経細胞において、張力がかかる部分で特異的にBMPシグナルが活性化されNPB遺伝子の発現が促進されることが示された(文献7)。ただ、これまでのところ実際の初期発生で同様の現象が示された例はない。そこで本研究では、ツメガエル胚を用い、プラコード形成において細胞張力に依存したBMPシグナルの制御がどのように行われているかを調べることを目的とする。行う実験・解析は以下のものを考えている。
① ツメガエル胚の外胚葉を用い、主に細胞伸展装置を使って組織全体を伸展させることでBMPシグナルがどのように変動するか、そしてその結果NPB遺伝子・プラコード遺伝子の発現が変化するかを調べる。この実験では、伸展方向や伸展の時期も考慮して行う。また、神経外胚葉と表皮外胚葉で異なる細胞の”硬さ”に着目し、互いに接触する両細胞群が同時に引っ張られる際の物理的ひずみに起因する力が境界領域でBMPシグナル活性を変化させるかどうか検証する。この時、FRET張力プローブで具体的にどのような張力変動があるかもモニターしながら行う。さらに、以上のような細胞張力の変化によってNPBあるいはプラコード領域の幅が実際に変化するかどうか、in situハイブリダイゼーションやRT-PCRなどによって検討する。さらに、BMPに加えてFGFシグナルについても調べる。
② 細胞張力とBMPシグナル活性の相関についてシミュレーションを実施し、実際の現象の蓋然性を検証する。また、二領域の硬さの違いがBMPシグナルの伝達に与える影響についてもシミュレーションを実施しBMPシグナルの強度分布をin silico推定する。この解析では、申請者が行っている細胞形状の解析系も取り入れ、実際の細胞形状データとの比較により推定の妥当性の補完情報とする。
参考文献
- Matsukawa S, Miwata K, Asashima M, Michiue T. The requirement of histone modification by PRDM12 and Kdm4a for the development of pre-placodal ectoderm and neural crest in Xenopus. Dev. Biol. 399:164-176 (2015)
- Chen YC, Auer-Grumbach M, Matsukawa S, et al. Transcriptional regulator PRDM12 is essential for human pain perception. Nat. Genet. 407:803-808 (2015)
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- Watanabe T, Yamamoto T, Tsukano K. Hirano S. Horikawa A, Michiue T. Fam46a regulates BMP-dependent pre-placodal ectoderm differentiation in Xenopus. Development 145: pii:dev166710 (2018)
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