細胞のターニング応答に関する数理動態解析から網羅的解析へのアプローチ

研究代表者
澤井 哲

東京大学 大学院総合文化研究科広域科学専攻
http://sawailab.c.u-tokyo.ac.jp/

研究概要

白血球の一種である好中球は、バクテリアによって産生されるペプチドや、マクロファージなどから放出されるケモカインに向かって移動する。がん細胞では、上皮などまわりの組織から分泌される誘引性因子によって移動することが、その浸潤能に大きな役割を果たしていると考えられている。こうした這いまわる細胞では、特定の細胞外リガンド分子の濃度勾配によって一方向的な細胞の移動、走化性が誘起される。走化性シグナルや、それにともなう細胞動態の理解には、その非自明さゆえに、数理モデル解析と実験解析との深い連携が必須である。細胞運動のモデル生物種である細胞性粘菌や好中球様HL60細胞の研究進展から、Ras, Racなどの低分子量Gタンパクが、フィードフォワード制御を受けることで、誘引物質の時間、空間的な違いが先導端の形成にいかにつながっているかがわかってきた。一方で、受容体直下のシグナルとアクチンフィラメント形成の間には依然として大きなギャップがある。本研究では、受容体下のシグナル伝達因子の活性化イベントが、刺激変化の時定数や濃度レンジの情報を選択的にかつ時間順序をもっていかにエンコードしているか、これによって細胞のターニング行動がいかに実現しているかの解明を目指す。マイクロ流体デバイスを用い、様々な時間スケールで向きや位置を変化させ、周期的な刺激を繰り返し、既存の刺激導入デバイスでは分離困難であった選択的なシグナル応答を、ライブセル測定から解析する。これと並行して、周期的刺激によって極性変化を同調させ、刺激のタイミングや大きさ、持続時間に選択的に応答する因子を、ショットガンプロテオミクス解析から探索する。同定された因子を、より詳細なライブセル動態解析へとフィードバックさせることで、解析を循環させる。持続時間や刺激応答性が異なる複数のシグナル経路の寄与の違いから、細胞のターニングの様式の違いがいかに出現するか、数理解析から理解する。

参考文献

  1. K. Kamino, Y. Kondo, A. Nakajima, M. Honda-Kitahara, K. Kaneko, S. Sawai (2017) Fold-change detection and scale-invariance of cell-cell signaling in social amoeba. Proc. Natl. Acad. Sci. USA (in press).
  2. A. Nakajima, M. Ishida, T. Fujimori, Y. Wakamoto, S. Sawai (2016) The Microfluidic lighthouse: an omnidirectional gradient generator. Lab Chip 16, 4382-4394.
  3. F. Fukujin, A. Nakajima, N. Shimada and S. Sawai (2016) Self-organization of chemoattractant waves in Dictyostelium depends on F-actin and cell–substrate adhesion. J. Roy. Soc. Interface 13, 20160233.
  4. A. Nakajima, S. Ishihara, D. Imoto and S. Sawai (2014) Rectified directional sensing in long-range cell migration. Nat. Commun. 5, 5367.
  5. K. Fujimoto and S. Sawai (2013) A Design Principle of Group-level Decision Making in Cell Populations. PLoS Compt. Biol. 9(6): e1003110. 
  6. D. Taniguchi, S. Ishihara, T. Oonuki, M. Honda-Kitahara, K. Kaneko and S. Sawai (2013) Phase geometries of two-dimensional excitable waves govern self-organized morphodynamics of amoeboid cells.  Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 110, 5016-5021.  ( Equal contribution)

 

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