一回膜貫通型受容体のシグナル伝達の構造基盤
研究代表者
大戸梅治
東京大学大学院薬学系研究科
http://www.f.u-tokyo.ac.jp/~kouzou/
研究概要
生体中において一回膜貫通型受容体は種々の局面で重要な役割を果たしている。例えば免疫において微生物など病原体の構成成分は一回膜貫通型受容体であるToll-like receptors (TLRs)などの病原体センサーによって認識され様々な免疫応答を引き起こす。これら一回膜貫通型受容体は、様々な病気の治療薬のターゲットとされている。しかし、一回膜貫通型受容体の機能発現機構は主に細胞外のシグナル受容ドメインと細胞内のシグナル伝達ドメイン個別に研究されてきた。その結果、細胞外ドメイン単独でどのようにリガンドを認識するのか、細胞内ドメイン単独でどのように下流のシグナル伝達因子と相互作用するのか、などに関しては多くの情報が蓄積されてきた。しかし、両者をつなぐ研究が不足している。細胞外ドメインと細胞内ドメインの間で細胞膜を介してどのような協働性が存在してシグナルが伝達されるのかに関する実験的証拠は乏しく、現状では細胞外と細胞内の間の情報伝達機構はほとんど憶測の域を出ない。それを理解するためには、一回膜貫通型受容体の全長を用いて、脂質2重膜中での挙動を調べる研究が必要である。
本課題では、研究代表者がこれまで進めてきたTLR受容体をモデルタンパク質として、全長TLR受容体の脂質2重膜中での構造情報の取得を目指す。結晶構造解析、クライオ電顕などの構造解析に加えて、脂質2重膜中でのTLR受容体のリガンドとの相互作用解析など各種物理化学的、生化学的解析を通して、全長TLR受容体の活性化機構を明らかにする。
参考文献
- Zhang, Z., Ohto, U., Shibata, T., Krayukhina, E., Taoka, M., Yamauchi, Y., Tanji, H., Isobe, T., Uchiyama, S., Miyake, K., & Shimizu, T. “Structural analysis reveals that Toll-like receptor 7 is a dual receptor for guanosine and single-stranded RNA.” Immunity, 45, 1-12 (2016)
- Ohto, U., Shibata, T., Tanji, H., Ishida, H., Krayukhina, E., Uchiyama, S., Miyake, K., & Shimizu, T. “Structural basis of CpG and inhibitory DNA recognition by Toll-like receptor 9.” Nature, 520, 702-705 (2015)
- Tanji, H., Ohto, U., Shibata, T., Taoka, M., Yamauchi, Y., Isobe, T., Miyake, K., & Shimizu, T. “Toll-like receptor 8 senses degradation products of single-stranded RNA.” Nat Struct Mol Biol, 22, 109-115 (2015)
- Tanji, H., Ohto, U., Shibata, T., Miyake, K. & Shimizu, T. “Structural reorganization of the Toll-like receptor 8 dimer induced by agonistic ligands.” Science, 339, 1426-1429 (2013)
- Ohto, U., Fukase, K., Miyake, K. & Shimizu, T. “Structural basis of species-specific endotoxin sensing by innate immune receptor TLR4/MD-2.” Proc Natl Acad Sci U S A, 109, 7421-7426 (2012)