細胞マルチポラリティのパターン形成の数理モデリング解析

研究代表者
中村直俊

京都大学大学院医学研究科・ゲノム医学センター・統計遺伝学教室
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研究概要

細胞はその種類と置かれた状況によって、細胞膜上に様々なパターン(細胞極性)を作り、細胞運動や細胞分裂などの機能を果たしているが、その数学的なメカニズムは十分に明らかになっていない。研究代表者はこれまでに、真核細胞の走化性において運動の方向を示すシグナルとして働く膜のリン脂質PI(3,4,5)P3の動態を記述する3変数・空間1次元(周期境界条件)の反応拡散方程式モデルの分岐解析を行った。シミュレーションによって得られた定常解を数値計算によって延長することで、分岐図を描くことができた。定常解は一様解、1山解、2山解の3つに大別され、一様解と1山解はあるパラメータ領域において安定である。これに基づき、PI(3,4,5)P3の過渡的なスポットパターンが、1山解がサドル・ノード分岐で消滅した後の「余韻」として理解できること、またPI(3,4,5)P3の進行波パターンは1山解からピッチフォーク分岐によって生じることを明らかにした。
本研究では、これらの知見をさらに発展させ、
(a) 細胞極性が1つのピークをもつ場合(ユニポラリティ)と複数のピークをもつ場合(マルチポラリティ)の違いを数理モデルの解析によって明らかにする。
(b) モデルをより実際の細胞膜に近い2次元閉曲面に拡張し、数値シミュレーションと分岐解析によって、生じるパターンのメカニズムを解明する。
また、研究代表者はこれまで、細胞イメージング実験データの解析および数理モデリングを統合したアプローチで研究を行ってきており、本領域で得られる新しい実験データの数理解析にも貢献したい。

参考文献

  1. Naotoshi Nakamura and Tatsuo Shibata. Bifurcation analysis of a self-organizing signaling system for eukaryotic chemotaxis. Japan J Indust Appl Math 32, 807 (2015).
  2. Yohei Okubo, Junji Suzuki, Kazunori Kanemaru, Naotoshi Nakamura, Tatsuo Shibata, Masamitsu Iino. Visualization of Ca2+ filling mechanisms upon synaptic inputs in the endoplasmic reticulum of cerebellar Purkinje cells. J Neurosci 35, 15837-46 (2015).
  3. Naotoshi Nakamura, Toshiko Yamazawa, Yohei Okubo, Masamitsu Iino. Temporal switching and cell-to-cell variability in Ca2+ release activity in mammalian cells. Mol Syst Biol 5, 247 (2009).
  4. Toshiko Yamazawa, Naotoshi Nakamura, Mari Sato, Chikara Sato. Secretory glands and microvascular systems imaged in aqueous solution by atmospheric scanning electron microscopy (ASEM). Microsc Res Tech 79, 1179-1187 (2016).
  5. Koichi Akiyama, Naotoshi Nakamura, Keiichi Itatani, Yoshifumi Naito, Mao Kinoshita, Masaru Shimizu, Saeko Hamaoka, Hideya Kato, Hiroaki Yasumoto, Yasufumi Nakajima, Toshiki Mizobe, Satoshi Numata, Hitoshi Yaku, Teiji Sawa. Flow-dynamics assessment of mitral-valve surgery by intraoperative vector flow mapping. Interact CardioVasc Thorac Surg ivx033 (2017).
  6. 中村 直俊「真核細胞の走化性を生み出す自己組織化シグナルシステムの分岐解析」数理解析研究所講究録1994, 88-93 (2016).
  7. 中村 直俊「細胞生物学と力学系:Waddington's epigenetic landscape再訪」現象数理学冬の学校「数学の眼で見る生命の世界」2011年1月

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