ケミカルバイオロジーを基盤としたシグナル伝達可視化・制御技術の開発

研究代表者
堀 雄一郎

大阪大学大学院工学研究科、大阪大学免疫学フロンティア研究センター
http://www-molpro.mls.eng.osaka-u.ac.jp/

研究概要

化学を基盤としたタンパク質の標識技術は、蛍光タンパク質を用いたイメージング研究を補完する新たな生命科学の手法として、注目を集めるようになってきた。特に、タグタンパク質と合成蛍光プローブを用いたイメージング技術は、生細胞中のタンパク質の動態を高精度に明らかにするうえで、極めて有用である。この技術では、標的タンパク質にタグタンパク質を融合し、合成蛍光プローブによりそのタグを特異的に標識することによって、標的タンパク質を生細胞中でイメージングすることが可能となる。タグタンパク質を用いた標識技術の利点は、特定のタイミングで細胞中のタンパク質を標識できることである。このため、パルスチェイスによりタンパク質の動態を高い時間分解能で明らかにすることができる。また、光安定性の高い色素を利用することができるため、光褪色が問題となる長時間イメージングに適している。一方、細胞に添加した未標識のプローブのバックグラウンドシグナルが、迅速なタンパク質のイメージングが必要とされる実験において問題となっていた。

この問題を解決するために、我々は、新たにタグタンパク質としてPYP(Photoactive yellow protein)タグを見出し、その標識プローブを開発してきた。PYPタグは、紅色硫黄細菌由来の小タンパク質(125アミノ酸)であり、桂皮酸やクマリンの誘導体をリガンドとして共有結合する。この技術の最大の特徴は、遊離プローブは非蛍光性でPYPタグを標識すると蛍光性となる「発蛍光プローブ」を用いることである。この結果、遊離プローブを除くための洗浄操作を行うことなく、迅速にバックグラウンドシグナルの低いタンパク質のイメージングができる。これまでに、青色から遠赤色に至る異なる複数の波長の蛍光を発する発蛍光プローブの開発に成功している。これらのプローブとPYPタグを用いて、エピジェネティクス関連タンパク質の動態や、グルコース輸送体GLUT4の糖鎖のタンパク質動態における役割を明らかにしてきた。

本研究では、この標識技術を高度化させ、新しい付加価値を持つシグナル伝達研究ツールの開発を目指す。具体的には、タンパク質を標識する化学プローブの精密設計及びタンパク質工学を組み合わせることで、蛍光レシオの変化を利用して細胞中のタンパク質を検出する技術や、pH環境を可視化することでタンパク質のエンドサイトーシス等を可視化する技術を開発する。更には、Wnt経路を主たる標的として、蛍光以外の機能性分子をタンパク質に導入することで、タンパク質の局在情報に加え、機能情報を得ることのできる技術を開発する。

参考文献

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