細胞の生存と死を決定する制御システムの数理モデル化
研究代表者
藤田宏明
京都大学大学院医学研究科 細胞機能制御学
http://mcp.med.kyoto-u.ac.jp
研究概要
TNF-α等のデスレセプターを介する刺激は細胞の生存を促すNF-κBシグナル活性化に加え、細胞死を誘発する相反したシグナルを伝達する。NF-κBは免疫応答や炎症反応、抗細胞死など多彩な細胞機能を制御する転写因子であり、その異常活性化はガンやリウマチ、アレルギー疾患に、また活性低下は細胞死を引き起こし肝癌や皮膚炎等の疾患発症に関与する (1)。そのため、NF-κBシグナルは活性化因子、抑制因子による緻密な制御下にあり、その複雑な制御機構を理解し、動態をシュミレーションすることは、細胞の挙動だけでなく疾患の病態予測につながると考えられる。これまで私たちは、直鎖状ユビキチン鎖を選択的に生成するLUBACユビキチンリガーゼを同定し、NF-κB活性化に関与することを報告した (2−4)。LUBACの特記すべき点は、NF-κB活性化に必須な因子であると同時に、NF-κB活性化を負に制御する脱ユビキチン化酵素CYLD、OTULINと特異的に結合し、NF-κBシグナルを適切な活性化に導く点である (5)。そこで、本研究ではLUBACによる緻密なNF-κB活性化制御機構を理解するためにLUBAC、CYLD、OTULIN欠損細胞に加えLUBAC-CYLD、LUBAC-OTULINの結合を特異的に欠損させた変異体細胞を作成し、様々な刺激因子によるNF-κB活性化の実測データから数理モデルを作成し、NF-κBシグナルの緻密な動態制御機構を理解する。上記解析に加え、細胞死抑制に必要な最低限のNF-κB活性化量を定量することでNF-κB活性化の数理モデルに細胞死の概念を導入する。またTNF-α刺激ではアポトーシス、炎症惹起性のネクロトーシスの2つの形態の細胞死が引き起こされる (6)。2つの細胞死の制御に関与するタンパク質の発現を人工的に調整できる細胞を作成し、惹起される細胞死の形態を定量することで、細胞死の数理モデルを作成する。これら数理モデル構築により、デスレセプターを介するシグナル経路をより深く理解し、さらに数理モデルから細胞のNF-κB活性化の度合い、細胞死の有無、形態を予測することを目指す。
参考文献
- Vallabhapurapu, S., and Karin, M. (2009). Regulation and function of NF-κB transcription factors in the immune system. Annu. Rev. Immunol. 27, 693-733.
- Kirisako, T., Kamei, K., Murata, S., Kato, M., Fukumoto, H., Kanie, M., Sano, S., Tokunaga, F., Tanaka, K., and Iwai, K. (2006). A ubiquitin ligase complex assembles linear polyubiquitin chains. EMBO J. 25, 4877-4887.
- Tokunaga, F., Sakata, S., Saeki, Y., Satomi, Y., Kirisako, T., Kamei, K., Nakagawa, T., Kato, M., Murata, S., Yamaoka, S., et al. (2009). Involvement of linear polyubiquitylation of NEMO in NF-κB activation. Nat. Cell Biol. 11, 123-132.
- Iwai, K., Fujita, H., and Sasaki, Y. (2014). Linear ubiquitin chains: NF-κB signalling, cell death and beyond. Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 15, 503-508.
- Takiuchi, T., Nakagawa, T., Tamiya, H., Fujita, H., Sasaki, Y., Saeki, Y., Takeda, H., Sawasaki, T., Buchberger, A., Kimura, T., et al. (2014). Suppression of LUBAC-mediated linear ubiquitination by a specific interaction between LUBAC and the deubiquitinases CYLD and OTULIN. Genes Cells 19, 254-272.
- Weinlich, R., Oberst, A., Beere, H.M., and Green, D.R. (2017). Necroptosis in development, inflammation and disease. Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 18, 127-136.