数理解析ワーキンググループ研修会報告(大阪大学豊中キャンパス)
中村 貴紀(東京大学医科学研究所 分子シグナル制御分野)
2017年4月27〜29日の3日間、大阪大学豊中キャンパスにて開催された数理解析ワーキンググループ「細胞生物学研究における数理的手法」(大阪大学数理・データ科学教育センター主催、新学術領域「数理シグナル」共催)に参加してきました。同ワーキンググループ研修会は、生物系若手研究者(大学院生、ポスドク、助教など)に数理解析に触れる機会を与えて自らの研究に活かす契機にすることを主目的としており、今回は15名ほどの若手研究者が参加しました。
初日に私の研究テーマ「中心体鍵分子PLK4の中心体移行機構」と熊本大学 西山先生の研究テーマ「血管新生における細胞が自発的に分枝構造を作るしくみ」に関する各々の研究発表と数理解析における問題提起を行いました。更に東京大学医科学研究所 伊東先生の研究テーマ「肺腺がんにおけるEGFE-TKI耐性獲得の数理解析」を加えた3課題に対して、それぞれワーキンググループを立ち上げて数理シミュレーションを行うためのモデリング(数式の組み立て)を行いました。私は自らの研究テーマ「中心体鍵分子PLK4の中心体移行機構」のワーキンググループに参加しました。私の他に大阪大学鈴木研の森竜樹さん、Fermin Franco Medranoさん、畑中尚也さん、Benjamano Apinatさん、東京大学医科学研究所 井上研の関崇生さんが同グループに参加して頂きました。モデリングに必要な数式は大阪大学 鈴木貴先生が事前に作成して頂いていたため、ワーキンググループの最初の活動としてグループディスカッションを通して一つ一つの数式を吟味して実際の細胞内での分子の動きとして適切か判断していき、必要な場合には修正を加えて行きました。
2日目はモデリングの数式を再検討してシミュレーションに必要な数式を組み立てて行きました。完成した数式を大阪大学鈴木研の森竜樹さんを中心に有限要素空間におけるシミュレーションのためのプログラミングコード作成を行って頂きました。丸一日かかりましたが何とか1日でシミュレーションを行える所まで行き着くことができました。
最終日は2日間のワーキンググループで行った数理シミュレーション結果を報告して、モデリングの数式やシミュレーションの善し悪しを全体で討論を行いました。細かい初期値や各反応係数等に関しては更に検討する必要がありましたが、私達のワーキンググループは分子が中心体移行する様子を有限要素空間においてある程度再現することができ2日間の日程を考慮すると上出来だったと思われます。
私はウェスタンブロットで細胞内の蛋白質発現量やリン酸化レベルを調べること、または特定蛋白質を蛍光標識または染色して細胞内局在をモニターするなど、実験を主体に生命現象の解明をこれまで試みてきました。このため生命現象を数式に変換してコンピュータ上でシミュレーションすることで生命現象の更なる真髄を明らかにしようとする数理解析は、私自身興味はあるものの敷居の高い学術領域という印象を持っておりました。
今回開催された数理解析ワーキンググループに参加できたことで、細胞という有限要素空間において分子が中心体へ移行する様子を数式に起こし、この数式をプログラムコードに変換してシミュレーションするという一連の数理解析の流れを直接体験できたことが私の数理解析に関する理解を深める良い契機となりました。また今回大阪大学 中澤嵩先生には有限要素法によるプログラミングコードの作成方法を個別に教えて頂いたことも私自身の研究を数理解析に活かしていく上で大変勉強になりました。更に私と一緒に参加した大学院生も今回の研修会への参加を契機に自らのテーマでシグナル伝達の数理解析を開始しました。本研修会を通して、生物学研究における数理解析の実際を理解し、その有効性を実感することができました。